マシニスト
俺は嘘つきだ。
小さな嘘から大きな嘘まで今まで何回ついてきたんだろうと思う。
口から出た時は大したことないんだけどあとから思い出して死にたくなるくらい悔やむ。
なんてちっぽけなことで嘘をついたんだろって。
何度治そうとしても治らないし、嘘をついて手に入れた人間関係はリセットして忘れることにしてきた俺は、もう嘘依存症なんだと思う。
小学生のときは、よく先生に嘘をついていた。
宿題をやりたくなくて家に忘れた、わざと自分の血をプリントに塗ったくってイタズラされたなんて今思えばドン引きの嘘をついたりしていた。
たかだか宿題のために。
学校をサボるのも恒常化していた。
両親は4人の兄弟を育てて、年の離れた俺を産んだ。
母は四十を過ぎていた。
バッチの子だった俺は甘やかされて育ち、すくすくと嘘をつくようになった。
家の中で常に褒められ、認められていた俺は外でもそうありたくて、仮初めの自分を演じていたんだと思う。
それがどんだけ虚しいことか、タイムマシンがあったら見に行きたいね。
別に諭したりはしないけど。
そんな幼少期の俺が塞ぎがちになったのは野球を始めてからだった。
デブで大柄で、喘息持ちだった俺は4年間続けた野球が下手くそでお情けで背番号をもらう体たらくだった。
身体だけは大きいから上手く見られがちで、期待した目で俺のプレーを見て失笑する父兄やコーチが多かった。
当時はそれが本当に恥ずかしくて、悔しくて、でも喘息があるから満足に走ったりもできなかったからずぶずぶ続けても呆れられることしかなかった。
それでも辞めなかったのは、友達の目があったからだった。
俺のいたチームはほぼ全員同じ小学校に通っていて、やめたらなにを言われるかわかったもんじゃなかった。
監視の目に近かった。
もしやめたら後ろ指をさされて、コソコソと悪口を言われるのではないと思っていたのだ。
6年生の時、チームのキャプテンはいつも俺を仲間外れにして、二人一組でやるストレッチでも余って、俺は家で悔しくて惨めでやるせなくて泣いてた。
たまに一緒に遊べば鬼ごっこで延々と鬼をやらされて、逃げるふりをして家に帰られてずっと街中を探し回ったこともあった。
子供は残酷だ。
加減を知らないから。
そんな時、キャプテンの妹がすごく優しくて、鬼ごっこでもういないやつらをウロウロと探している俺を見かけて、家に帰っていた兄を怒りにいってくれたことがあった。
年下の、それも同級生の妹に庇われるのは最大に恥ずかしくて俺はもう死にたくなった。
本来なら6年生でも低学年のチームの試合に出る実力しかないのに、公式戦となればお情けでベンチ入りして同級生や下級生の使ったバットを片付ける係をやらされる。
本当に惨めで、毎週金曜の夜は天気予報に電話して雨を願った。
のちに見た映画で「雨を祈るなら、ぬかるみに注意しろ」と主人公が言っていた。
今にして思えばウジウジと雨を待ち望んでいるような俺は上手くならなくて当然で嫌われ者になるべくしてなっていたのかもしれない。
けれど当時相談できる相手もいない俺は塞ぎ込むしかなかった。
友達もろくにいない俺はよく自転車で地元を徘徊してた。
裏道を見つけてはニヤニヤとするような。
そんな孤独で悲しい遊びをしていた。
公園を見つけてはそこで遊ぶ自分の同じ歳くらいの子供たちを遠巻きに見つめたり。
児童館に行って漫画を読んだり、週一回知らない子たちとドッチボールをしたり、本当に孤独で虚しかった。
17時くらいまで外に無理やりいて、あとは家でずっとアニメを見ていた。
本はたくさん読んだ。
デルトラクエストやアレックスシアラーの本は母親が買い揃えてくれた。
海外の作家が好みだったけど、母親に勧められて赤川次郎を読んだりもした。
イチローのメジャーリーグに挑戦するまでの本を読んでイチローですら高校で一度野球から逃げ出した話を見て変な部分でシンパシーを感じたりしていた。
映画もたくさん見た。
徹底的な放任主義だった俺の家は、自分で止めるまでずっとテレビを見ていられた。
ベートーベン、ベイヴ、ホームアローンやスモールソルジャーが大好きだった。
中でも、ロジャーラビットはビデオテープが擦り切れるまで何度も何度も見た。
テレビ番組も、夜更かししてたくさん見て、お笑いが好きになった。
小学生のうちに1人遊びの流れを作ってしまったのは今となっては良かったと思う。
お笑いライブに通い、そこで友達を作り、嘘をつき、ある程度遊んで慣れたらそこから消えてリセット、みたいなことをやったりもしていた。
映画館や個展に通い、本を読んだりするととても満足して孤独を忘れることができる。
ふとしたとき虚しくなるけど、ふとしないときのほうが多いのでなんとかなる。
そんな今の基礎には、やはり小学校のころの自分が大いに関わっているのだと思う。
人格形成というか指針というか、なにかを選択するとき、知らず知らずのうちに昔から好きなものを選びがちだ。
今でも予定を計画するのは苦手で、断られたり忘れられるのが怖い。
対人関係がからっきしダメだ。
それでもなんとかやりくりはできている
今日はこの辺にしておこうと思う。
それでは